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おばなさわ

おばな沢

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,479 字 · 45 页

青空文庫

兄は相良桂一郎が好きだったのである。節子が相良の求婚を断わり、戸田と結婚することに不満なのだ。口にだしては云わないが、このごろのそぶりにはよくそれがあらわれていた。

「尾花沢ではなにがありますの、お母さま」

「――なにがって、なあに」

「だって、これまであそこには三人か五人、足軽くらいの人がいるだけだったのでしょう、それなのに番所を建て増したり、御弓組を二十人もつれて戸田さまがいらしったり、まるでなにか騒動でもあったようじゃございませんの」

「母さんはなんにも聞いていないけど、あなたどうしてそんなこと知っていらっしゃるの」

「お手紙に書いてありましたのよ、お父さまからお聞きになって御存じかと思っていましたわ、そうじゃございませんでしたの」

「いいえ、母さんは知らないことよ」

「まあ困った、どうしましょう」

節子は当惑げに肩をすくめた。

「お手紙には決してひとに話してはいけない、たいへんな秘密な事なのだからと書いてございましたの、お母さま御存じでなければお聞きするんではございませんでしたのに、どうぞないしょにして下さいましね、お母さま」

「母さんは云やあしませんよ、そんなこと、それよりこのお花どうなさる、根があるからお庭へ植えましょうか」