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おるすばん
おるすばん
壺井 栄
「少女の友」実業之日本社、1943(昭和18)年6月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 6,306 字 · 13 页
「年に一度だもの無理もないわねカ子ちゃん、それじゃゆくときめましょう。」
そういって仕度にとりかかったお母さんでした。この時に和子がわがままを通したことが、のちのちとり返しのつかぬ不幸を招くきっかけとなろうなど、十三才の和子が、どうしてよそうすることができたでしょう。和子は先に立って旅行カバンを持ち嬉々として家を出ました。若松で出迎えてくれたお父さんが、お母さんを見るなり、顔色がかわるほどのおどろきで、
「どうした、病人のようじゃないか。」
といわれるまで、和子はお父さんにあえる喜びばかりを先にたててお母さんのことを考えなかった自分に気づきました。そういえばお母さんは、来る途中でも、ろくにお弁当も食べなかったのです。それをさえも和子は、船よいくらいに考えていたのです。急に心配になって、
「お母さん、大丈夫?」
と、幾度も幾度も聞きました。そのたびにお母さんは笑顔になって、
「大丈夫とも、大丈夫よ。心配しないで、お父さんと歩いていらっしゃい。めずらしいものや、ためになるものを、ようく見て、おじいさんにお話しできるように、よくおぼえこんでいらっしゃい。」
そして、お母さん自身は宿屋の一室に、終日床をとってやすんでいました。