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おれのにょうぼう

おれの女房

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页

青空文庫

お勝という妻と二人ぐらしで、筆墨紙硯などを売っているが、それはほんの隠居の小遣い稼ぎであって、息子が神田で相当に大きな紙問屋をしており、そっちから月々のものを貢がれるらしく、好きな将棋と発句などひねりながら、ごくのんびりと暮していた。……少し口がうるさいのと、相手構わず発句をすすめ、将棋をいどむのには閉口するが、かげでは困っている者の面倒をよくみてやり、長屋のこととなると親身になって世話をした。

又五郎などもずいぶん厄介になった、店賃の滞るのは云うまでもない、こまごました借もだいぶある。しかし五兵衛はいちどもいやな顔をしたことがなかった。

――人間なにをするにも本当の苦労を知らなけりゃあ良い仕事はできませんや、まあひとつふんばって良い絵を描くようになって下さい。

そんなふうに云って、ときには息子の店からでも持って来るのか、たやすくは手にはいらないような、高価な紙を呉れたりした。――路地を表へ出ると二軒めの、雨戸が一枚あけてあり、山形に五の字の印を書いた腰高障子に、まだ明るく灯がうつっていた。

「おや珍しい、いまお帰りですか」

障子をあけると、妻女のお勝が笑いながら挨拶をした。