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おれのにょうぼう
おれの女房
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页
四
――妻のお石の姿が眼にうかんだ、甲だかな叫びごえが耳にまざまざと聞える。長屋ではそろそろ起きだしている家があるだろう。素朴なつつましい生活の音、その日その日のいとなみの、単調であるために却って安らかな物音。……お石はどんな気持で、どんな顔でそれを聞いているだろうか。又五郎は低い呻きごえをあげた、それから激しく首を振り、唇を歪めて笑った。
「それがなんだ、おれは問屋から荷を卸して来て、それを売って暮す者とは違う。建具屋でもなければ呉服屋でもないんだ、そういう利で食う人間とは違うんだ」
彼はこう呟き、眼に見えない敵とでも対決するように額をあげ肩を聳やかした。
「高く飛躍するためには常識からぬけ出さなくてはならない、世俗的な観念をうち毀すんだ、おれがどんな人間かということは、絵が証明するだろう」
「なに独り言を云ってるの、寒いのにいつまでこんなところでなにしてるのよ」女がうしろへ来て腕をひいた。又五郎は向きなおり女の肩を抱きながら云った。
「飲もう、いって三人を起して来て呉れ」
四
昏れがたにそこを出て、その夜は島田の家で泊り、明くる日は井上がどこからか金を都合して来て、また飲みまわったうえ、吉原の同じ家へあがった。