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おれのにょうぼう

おれの女房

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页

青空文庫

「おぶちよ、もっとおぶちよ、好きなだけぶったらいいじゃないか、あたしなんか、どうせあたしなんか」

「きさまは狩野にいた、おれといっしょになってからも、もう十年になる」

又五郎は歯をくいしばり、声をころして云った。

「絵師というものがどういうものかくらい、およそわかっていない筈はないだろう、ことにおれはひととは違った仕事をしようとしている。これまでの絵師のやらない、本当の絵らしい絵、新しい絵の道を拓こうとしているんだ、そのためおまえには貧乏させる、済まない、悪いと思っているが、おれだって暢気じゃないんだ、おれだって苦しいんだ」

お石は醜く歪んだ顔を右へ左へ振り、そんなごたくは聞きたくないと叫び、なおも身もだえをし、泣きじゃくった。

「どうくふうしても思ったような絵が出来ない、描いても描いても俗になってしまう、寝ても起きてもそのことで頭はいっぱいだ、夜なかに眼がさめて、どうにもならない気持で、独りで呻いたりもがいたりしているんだ、――あんな出来そこないの絵を売るくらいなら、おまえにも貧乏はさせやしない。おれだってこんなに苦労はしやあしないんだ」

「もうわかったよ、お念仏はたくさんだよ、痛いから放しとくれよ」