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おれのにょうぼう
おれの女房
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页
は済まないがこの残っただけ受取って、あの絵を返して貰いたいことなど、昂奮と寒いのと空腹とに震えながら云った。
「そのためにこんな夜更けに、わざわざ久堅町から出てきたんですか」加平は呆れたらしいが、
「――平野さんの気性は昔から知ってるが、それにまあ金のことなぞはどっちでもいいが、……あの絵がどうしていけないんです、結構じゃありませんか、失礼だがこれまで拝見したなかでは図をぬいてるじゃありませんか、勝手なはなしだが、私はあれに鄙の曲水という題まで考えてるくらいです」
「いけないんです、あれはだめなんです、どうしたって裂かなければならないものなんです」
又五郎はただそう云い続けた。暫くなだめたがなんとしてもきかない、加平はじれったくなったようすで、立ってゆき、絵を持ってきて、ではどこがどういけないのかと、ひらきなおった姿勢で云った。
「――ああ、どこがどうもありません、ぜんたいなんです」
彼は絵をじっと眺めながら、独り言のようにこう云って呻いた。絵を眺める眼はするどく光り、表情が泣くようにひきつった。
「だめです、やっぱりだめです」
こう云ったと思うと、又五郎はその絵を取って、加平がああと止めるより早く、ひき裂いて、千切ってまるめてしまった。