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おれのにょうぼう
おれの女房
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页
明くる朝。食事のあとで、ちかごろ買ったとかで、石濤の山水を見せられた。それから石町の店を出たが、頭のなかは六曲一双のことでいっぱいになり、妙なところで立停ったり、道を間違えたりした。
「――鄙の曲水、……うん、悪くない」
気がつくとこんな独り言も言った。
「――それが阿波屋にぴんと来たとすれば、そしてさほどそれが悪くなかったとすれば」
こうして道で時間をとって、久堅町へ帰ったのはもう十時すぎであった。路地へはいると、長屋の人たちが妙な眼でこっちを見る、べつに気にもとめず家へいってみると、差配の五兵衛が上り框に腰を掛けて、いきまくような顔で煙草をふかしていた。
「ああお帰んなさい、だがお石さんはいませんぜ」
五兵衛はいきなりこう云った。
「とてもつとまらねえからひまを貰う、先生には話がついてるからってね、起きぬけにやって来て、てめえの荷物を纒めて、半刻ばかりめえに出てゆきましたよ」
「――お石が、……出ていったって」
又五郎は気のぬけたように棒立ちになった。
「先生が石町へいったわけもあらまし聞きました、私はそれこそ先生だと頭がさがった、だがお石さんにはわからねえ、――とにかくこんなとこへあがったってしようがねえ、私の家へいらっしゃい、悪魔っぱらいに一杯やって、これからの相談をしようじゃございませんか」