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おれのにょうぼう

おれの女房

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,296 字 · 46 页

青空文庫

又五郎は酒を飲みはじめ、若い仲間と議論したり、遊里へいりびたったり、二十日も五十日も絵具皿を乾かしたまま、仕事に手を出さない日を送ったりした。

借金は嵩むばかりだし、絵を頼む者はしだいに減るし、とりまいていた青年たちも一人二人と遠のくし、生活は苦しく、暗くなる一方であった。

島田と井上と松屋は彼を離れなかった。かれらは又五郎の才能を信じ、そのなかに自分たちの道の開拓があると信じていた。かれらは又五郎の絵を高く評価することで自分たちの野心の正しさを確かめ、同時に一般の人の鑑識の低さと、声名ある画家や、世にもてはやされる絵の卑俗で低級なことを証明しようとした。

しかし人間は、いつも純粋でいることはむずかしい。かれらは自分たちを信ずる余り、自分たちを受容れようとしない世間に対して、軽蔑と憎悪を感じはじめた。

――あのときの画会の失敗がわかったよ、あれは単に絵が理解できなかったためじゃない、狩野家の手がまわっていたんだ。

井上孝兵衛が確かな筋から聞いたと、そういきまいたとき、又五郎は冷やかに笑った。

――なんだ、今ごろやっと気がついたのか。

おれは初めから知っていた、絵を頼む者がなくなったのも、狩野一派の策謀なんだ。