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ぐうたらどうちゅうき
ぐうたら道中記
佐々木 邦
「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页
斯ういう具合に先方が打ち明ける程度で此方も胸襟を開いている中には必ずそれとはなしに自分の出所を口から辷らせる。すると相手も一騎打の精神に従って遠からん席にも聞えるぐらいの声で、東京市日本橋区の住人という風に屹度名乗りを揚げる。
「日本橋は何の辺でございますか?」
とお父さんは火事とでも聞きつけたように向う側から乗り出した。
「本町三丁目でございます」
と老人が答えた。
「そうでございますか。実は妻の里も本町三丁目でございまして」
「奥さんのお里が? はゝあ、三丁目は何誰様でございます」
「木本と申します」
「はゝあ、木本さんでございますか? 木本さんなら何方も生え抜きで若い時分から御別懇に願っております。木本さんの御親類で、あなたが、はゝあ」
話し合っている中に不図共通の知人が出て来たり、商売や道楽の同じなことが分ったりしても直ぐに肝胆相照らして名刺の交換に及び、別れる時には窓から鞄を出してやってそれっ限りになるものだが、里の鬼瓦の相棒と素性が知れて見ると、お父さんはこの老人に特別の敬意を表さなければならなかった。
「然うでございましたか。木本君の、はゝあ、御長女の、はゝあ、御婿さんで、はゝあ」