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ぐうたらどうちゅうき

ぐうたら道中記

佐々木 邦

「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页

青空文庫

というのが立っていた。

間もなく星野さんが、

「これから吉田山へ登って一段落かな」

と独言のように言うと、団さんは、

「大文字なんか何うでも宜いよ。この連中は打棄って置いても好い加減物見高い上に、時間と空間の観念が全くないんだから、詰まらない入知恵は余りしないことだね。蟻の観音詣りじゃあるまいし、然う一々寄って歩いちゃ果しがないよ」

と注意した。山と聞いて例の通り恐れを為したのらしい。

「大文字って何?」

と田鶴子さんが僕に訊くと、

「今の話じゃないんですよ」

と星野さんも山登りは嫌いらしく、

「盆に如意岳で大の字形に焚く送り火のことで、吉田山へ登ったらその跡が見えるだろうって言うんです」

と暈してしまった。燃え盛ると大の字が明々と中空に浮いているようで頗る壮観だぜと、先刻は頻りに提燈を持っていたのに。

「時に僕の模擬家庭はこの直ぐ先だから一寸寄って行って呉れ給え」

と柴さんが藪から棒に招待した。この辺は住宅地と見えて同じような黒門構えが並んでいる。僕達はその一軒へゾロ/\と入った。何しろ大人数なので、

「お嬢さんも坊ちゃんも何卒お敷き下さい。模擬布団を」

等と柴さんは斡旋に努めて、奥さんを紹介した。