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ぐうたらどうちゅうき

ぐうたら道中記

佐々木 邦

「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页

青空文庫

「近いとも、地図を見ると一寸五分はない。大丈夫だよ」

とばかりに「左様なら」と言うのを忘れて行ってしまった。何か忘物をしないと気が済まない。それから上方に縁の薄いお父さんと僕に至っては小川さんの案内で又汽車に揺られ電車に乗り換えてこの東天下茶屋のお宅へ厄介になった。

朝御飯を戴いてから、二階の縁側で鈴実り電車の数に郊外生活の繁昌を卜していると、

「坊ちゃん、お電話でございますよ。田鶴子さんと仰有います」

と奥さんが取次いで呉れた。直ぐに下りて行って、

「もし/\、田鶴子さんですか?」

とやると、

「はあ。謙さんね? お早うおます」

と田鶴子さんが笑った。別に要件があったのではない。明日はお目にかゝらないから朝お早うを電話で掛けましょうという約束を果したに過ぎなかったが、尚お、

「お子さんのあるお家?」

「否。子供の代りに動物がいます。何だか分る?」

「猫でしょう?」

「狆ですよ。狆!」

「然う。此方は大変よ」

「何がいるの?」

「子供のことよ。宛然玩具箱を引っくり覆したようだわ。今朝は最早慣れてしまったけれど、昨日は頭痛がしてよ」

「そんなに暴れるの」

「否。だって何処へ行っても薬の香がするんですもの。