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ぐうたらどうちゅうき

ぐうたら道中記

佐々木 邦

「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页

青空文庫

とお父さんは軽く頭を下げた。

「白髪は心配すると急に生える。一晩の中に真白になるのが小説には能くあるぜ」

と三輪さんは小説と現実の差別がない。

「心配じゃない。安心さ」

「安心して白髪が生えたのかい? 不思議なこともあるもんだ」

「小説にもないだろう。親父が生きている間息子が余り白くなっちゃ死に急がせると思って染めていたのさ。諸君を瞞着した形はあるが、事情止むを得ない」

と渡辺さんは悪びれた様子もなかった。

「流石に孝子は違ったものだ。こんな善い動機で白髪を染めるものは斎藤実盛以来稀だろうね」

とお父さんが褒めた。

「当てつけるなよ」

と密に黒チックというのを利用して黒がっている団さんが笑った。

「動機の悪いのが随分あるよ。此処の実業界の重鎮には仮髪を被っている禿頭がある。用意周到な男で、刈り立てのと十日伸びのと二十日伸びのを持っている。この三通りの仮髪を順繰りに十日毎に被り換えるから、長崎市全体が瞞着されている。独り僕丈けは蛇の道は蛇で大将がその仮髪を註文する大阪の店まで知っているから可笑しくて仕様がない」

と渡辺さんは長崎の消息にはこんな微細な人事にまで通じている。