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ぐうたらどうちゅうき
ぐうたら道中記
佐々木 邦
「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页
僕は汽車に乗り込んでから妹達や弟と幾度も握手の交換をした。お母さんも、
「謙一や、能く気をつけてね、毎日お手紙を下さいよ」
と言って窓を離れない。三輪さんの奥さんも三輪さんに何か言っている。田口さんも、
「諸君、何卒大切に頼むぜ」
と叫んだが、これは僕達の身の上よりも新聞包のことだったかも知れない。間もなく鈴が鳴って汽車は動き出した。
「左様なら!」
「左様なら!」
僕は初めて第三者の地位に立って自分の生れ故郷の東京を眺める機会に接した。品川までは省線の電車に度々乗ったことがあるが、それは東京にいる時の話で、当然東京が頭脳の中に入っているから、自分の家で自分の家の人の顔を見るのと同じ関係だ。お母さんの目は右が左よりも小さい。それを僕は十何年も知らずにいたが、この間三越へ行って階段を昇る時鏡に映ったお母さんによって初めて発見した。今斯うして旅人になって既に東京を離れた心持で見渡すに、僕の生れたところは決して日頃受けている印象ほど汚い市でない。殊に今朝は雨上りの所為か空は拭ったようで、遠近に聳え立っている大建築は形ながら色ながら瞭然として頗る壮観だ。田鶴子さんも同感だったと見えて、