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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
みんなにいたわられながら、私は楽しく忙しく立ち働いていた。
――そこへ不意に落ちてきたのが原子爆弾であった。ピカッと光ったのをラジウム室で私は見た。その瞬間、私の現在が吹き飛ばされたばかりでなく、過去も滅ぼされ、未来も壊されてしまった。見ている目の前でわが愛する大学は、わが愛する学生もろとも一団の炎となっていった。わが亡きあとの子供を頼んでおいた妻は、バケツに軽い骨となってわが家の焼け跡から拾われねばならなかった。台所で死んでいた。私自身は慢性の原子病の上にさらに原子爆弾による急性原子病が加わり、右半身の負傷とともに、予定よりも早く動けない体となってしまった。――ありがたいことには、たまたま三日前に、山のばあさんの家へ行かせた二人の子供が無傷で助かっていた。
それまで十数年かかって研究してきた多くの資料――戦争が終わったらまとめて論文として発表する予定だった、たくさんのレントゲン実験写真、ノート、図表などは、研究室の窓から赤黒い炎となってしばらく噴き出ていたが、明くる朝見たときには、すでに普通の灰となってしまっていた。私が、地獄へでも突き落とされたかのような絶望を抱いたのも無理のない次第であった。