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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
父母
けれども、その妻が同時に子供たちの母となる、という点に私の心はひっかかるのであった。子供の目先の便宜主義をさておき、遠い将来のことを考えるとき、私はどうしても子供たちに新しい母を迎える気になれなかった、そのわけは――
私はこの二人の子にのこす遺産を何ひとつ持っていない。私には財産が無い、いま住んでいる家も土地もばあさんの所有を借りている。家具も着物も焼けてしまった。わずかばかりの貯金は使い果たした。私の死んだあと、二人の孤児がもつものは――思い出である。思い出だけである。父の思い出と母の思い出と。
美しい思い出をのこしてやりたい。潔い思い出をのこしてやりたい。ゆかしい思い出をのこしてやりたい。ひとりの父と、ひとりの母――この純粋な親の思い出を……。
父母
この子は孤児となったら、だれの手もとに引き取られて育てていただくであろうか? ――
こんな幼い子供だから、人さまの世話にならないで生きてゆけぬことは確かである。今でもたくさんの友人が後は見てくれると申し出ているし、叔父さんたちも、引き受けるから大丈夫だと約束してくれている。しかし今時の財産は来年どうなるものやら当てにならず、親切なお方だって、ぽっくり明日死なぬともかぎらず、安心して頼めるものはまずないというのが本当であろう。