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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
汽笛が鳴った。時計を見る。七時十五分、定時発車だ。事故はなかったのだな。積み残しのあるほどの人出だったら一分か三分は遅れるはず。大丈夫だ。――けれども、子供が一人ぐらいけがしたって発車は遅れまい。もしけがをしていたら、停車場から電車で来て十五分、十五分以内に急を告げて来なかったら初めて安心できるわけ。
その上り列車が丘の向こうを平気な音を立てて過ぎていった。あの中に二人は乗っているかしら? うまく座席にかけられたかしら? それともデッキでおしつけられているかしら? 知らない小父さんに間を隔てられて、カヤノが「兄ちゃん、兄ちゃん」と泣いてはいないかな? それでも乗ってさえおれば安心だ。もし、カヤノが線路に突き落とされて、脚を切断されていたら――血まみれになって。誠一は脚の血止めの法をよく覚えていたっけか? 腿の付け根のところを指で強くおさえるのだが。――駅長室につれこむ。病院? ああ近くに病院はない。電車にのせて大学病院までゆくのか? 遠いぞ、間に合えばいいが――
十五分、というと七時三十分だ。七時三十分に、大変だっ、と叫んで誠一が駆けこんで来るか? あと七分。