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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
ロザリオの祈りを続けよう。しかし、脚の切断なら、不自由になるだけだが、胴体だったら――。いや、そんなことはない。ほんの足先だけだ。あと五分。汽車の響きはもう聞こえない。道ノ尾駅についたところだ。案外二人はあの汽車の窓から道ノ尾駅一帯の桜を、きれいネ、などと話しながら眺めているかもしれない。お父さんはこんなに、はらはらしているのに、のんきに花見なんかして――。あの駅には、つつじが見事に咲くのだったなあ。山吹の黄色い花も、桜並木の下を埋めていた。ずっと前にも誠一を妻がおんぶしてあのあたりに花見に行ったことがあったなあ。帰りに、やぶかんぞうを摘んだのは、あの川土手だった。あたたかい陽が当たって、若草の上を誠一が這いまわり……
足音! 門の中に勢いよく駆けこんだ。来たっ。ぞっとする。誠一か? ――
「しんぶうん」
ぱさっと障子の中へ、インキのにおいもろとも新聞が飛び込んだ。
ああ、よかった。時計を見る。三十二分。もう大丈夫だ。発車間際にけがはなかった。じゃあ、やっぱり二人はのんきに窓から花見などしながら乗っていったんだ。
新聞を拾い上げる。目をうつ大きな活字――急行列車追突! どこか? 大阪だ。