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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

毛糸の編み目一つ一つに、ポケットの縫い目ひと針ごとに母の愛情のこもった物ばかり着て育ったこの子たちだった。今もし生きていてくれたら、あるいは貧乏だからこれほど上等の物はそろわなかったかもしれぬが、それでも、スェーターはあの姉ちゃんの好み、もんぺはあの小母さんの好みといった、寄木細工みたいな服装はさせなかったであろうものを……。あのひとの好みらしい、統一された質素な物で入学する日の喜びを飾ってくれただろうに……。

思うてもせんなきもの。

今はただ贈ってくださった人びとの好意をすべて身につけさせて、よろこんでいただくよりほかはない。

二人の子は仲よく口げんかしながら天主堂へミサを拝みに行った。あとはひっそりとしていて、狭い部屋の中には幼い体臭が漂うている。私も仰向けに寝たまま朝の祈りをささげた。香台のガラス窓が明るくなってくる。白い聖母像がすがすがしく逆光に浮く。

天主堂の板の間に小さい兄弟は並んで座り、ご聖体に向かって何を祈っているのだろう? 誠一の少年らしい高い声、ところどころ憶えた祈りを添えるカヤノのたどたどしい声が聞こえるようだ。昨夜はうれしさにたびたび目をさましたから、祈りをしながら時々小さなあくびも出ているかもしれない。