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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

あの当時はむしろいいことをしてやったとさえ思っていたのだが、いまではわが子のことと思い合わせて、どうも気にかかって仕方がない。どうせ死ぬべき重い症状ではあったが、私に心の底から救ってやりたいとの気持ちのなかったことが、なんとしても気にかかる。

原子爆弾にやられてから四、五日目、それまで無傷で大丈夫だろうと思われていた人びとが、放射線による急性原子病を起こして、血を吐きながら次々死んでいった。私のあずかっている患者の中に二人の子供がいた。

一人は女の子で四歳。父は戦死して、母ひとりの手で育てられていたが、その母は、原子爆弾の落ちたとき、その子をわが身でかばって伏せたまま、倒れかかった柱に頭を割られて死んでいた。子はかすり傷ひとつ負わず救い出されたのだった。お母、お母と夜どおし病室にあてた土間で泣いて捜していたが、六日目から急に弱って血便を出し、熱を発した。私はそれを診察して、これはもう助からぬ、とすぐ予後を判定した。そして、この女の子は死ぬほうがかえって身の幸福だと思った。父も母もない孤児、しかもわずか四歳。世間のやっかい者として、つれない一生を送らねばならぬ身の上だ。