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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
世間の苦も知らぬうちに、天国へ召され、楽園で亡き父母に会うほうがよっぽど幸せだ。母はこの子を助けたいばかりに、柱の倒れかかる寸前、この子を腹の下にかばって、身代わりになってはくれたけれど、そうしてせっかく生き長らえた一生が果たして幸福なのであろうか? 早くお母さんのあとを追うて天国へ行くほうがいいだろう。――私はそう思ったものだから、治療も通り一ぺんにして、あまり身を入れなかった。女の子はそれから四日後に死んだ。
もう一人は五歳の男の子だった。私生児だったのである。父親が出征したあとで、生まれて初めてそんな女性のあったことがわかり、いざこざがあって、手切金を渡し、子供を父親の実家に引き取って育てていた。実家では血がつながってはいるし、子供に責任はないので皆でよくかわいがって無事に育ててはいたが、将来は結局何かいざこざのもととなる存在であった。父親が復員してきて、新しく嫁を迎えるときに確かに妨げになる子であった。この子は原子爆弾のとき浅い防空壕の中にいたので、傷は負わなかったが、やはり五日目から熱を出し、やがて皮下に小豆色の出血点があらわれ、恐ろしい急性原子病の症状を示してきた。