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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

。神ならぬ身の知るよしもなかったとは、このことであろう。伸治君はすでにあの一瞬に致死量以上の放射線を全身に受けていたのだった。その原子病があらわれるまでには何日かの潜伏期がある。潜伏期の間は体内の細胞の恐るべき破壊が始まっておりながら、まだなんの症状も表にはあらわれてこないのである。二人の子供が元気なものだから、田川君は親類を訪ねて三里の道を下っていった。そこで伸治君の五体に原子病は突然あらわれてきた。親の見ておれぬ苦しみであったそうな。だが、この子のもっていたしっかりした信仰は、あらゆる肉体の苦痛をかえって美しき花束にかえて、その臨終を飾った。田川君はわが子の神聖な臨終を見て、たちどころに真の信仰を悟った。――

それは伸治君が四年生のときであった。

それからのち、田川君はしきりに誠一に会いたがった。そして一方にはまた、会えば悲しくなるので、会うたあとでは、会わねばよかったと思うと、私に打ち明けたことがある。なんだか、伸治君にかけていた期待を誠一に移したようなかっこうであった。

死児の齢を数える、と言って笑うものがあるが、わが子を亡くしたことのない人の冷たい言葉であろう。