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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

へりくだり

生きていたら、あの子も中学校へ入る、と思えば、つい帽子屋へ入って新しい帽子を手にとってみよう。……

片岡君の長男も同じ年ごろだった。そしてやっぱりあの日に死んだ。片岡君はもう中学へゆく子はいなかったけれども、もし生きていたらどの学校へ入れたであろうかと、どの学校も調べ上げて来たのだった。そして同じ期待を誠一に移しているらしかった。

どうかすると、片岡君と田川君との誠一に対する期待と愛情とは、私以上に大きいのではあるまいか、と思うほどである。

子を亡くして初めて子に対する愛は深まり、親と別れていよいよ孝情が深まるものか。

へりくだり

誠一の霊名はヤコボ喜左衛門だね。ヤコボ喜左衛門聖人といったら日本二十六聖人のひとり、慶長二年二月五日この長崎の西坂で殉教したお方だ。二十六聖人といっても、日本国内では知る人も少ないが、世界中のカトリック教会で毎年二月五日にそのお祭をするので、むしろ外国で有名だ。おそらく古今の日本人のうち、いちばんよく知られているのかもしれない。欧州人はその二十六殉教者の勇ましい行ないによって、日本人は勇気のある民族だと知ったのだから。

ところで、この聖ヤコボ喜左衛門さまについては、備前の生まれで、イエズス会に入り、天主堂の門番を勤めていたということと、死んだときが六十四歳で、二十六人のうちのいちばん