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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
私の小屋は妻の骨を拾った焼け跡に建ててもらっていた。そこからは大学の焼け跡が目近に見えていた。私は朝夕そちらを向いて祈りをささげて暮らした。骨を捜して歩く老人のすがたが稀々に見えるだけだった。
大学の仮学舎が大村市で開かれた。汽車で二時間かかる出勤は、辛かった。講義中に脂汗が出るし、息は切れるし、元気な大声は出ないし、学生に迷惑をかけるばかりだった。講義中に四度も五度も腰をおろして、息をととのえねばならなかった。それはひっそりとした講義だった。わずかな生き残り学生――どこかに生々しい傷あとを見せている。話す私の顔の右半分も傷あとだらけだ。しかし、ほんとうに心にしみる授業だった。多くの同僚は講壇で死に、多くの学生もまたノートをとりつつ果てた後、こうして私たちだけが、真理探究の道をさらに続けてゆく……。それを想うと、おろそかならぬ使命がお互いに感じられるのであった。
講義がすんで医局へ帰ると、全身に張りつめていた力がすうっと抜け、楽屋に放り出された浄瑠璃人形みたいに、腰掛けの上にのびてしまう私だった。
そうこうして講義や教授会に出ているうち、しだいに体の力がなくなり、とうとう七月の末、長崎駅で倒れてしまった。