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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

人生の目的

いいなあ、百合はいいなあ。花をつくらば百合にかぎる。白百合にかぎる。見舞いに来る人ごとにこの百合を賞めた。

三日目に、女学生の一組からひと束の百合を贈られた。花の数はいくつあるであろうか、ひと目見て二十より下るまいと数えられた。それをどっさりと大きな花びんに投げ入れた。それはもう花ではない。一つの輝く塊であった。美しいというより、まばゆいのである。賞めるどころではない、圧されてしまう。眺めてはおれぬ、酔わされてしまう。友が訪ねてきたが、入口の戸をあける前に「おや、百合があるな」とつぶやくのが聞こえた。そして中に入るやいなや「いい香りだ」とつぶやいた。

一つの国の科学界もこのとおりだ。一人、二人の科学者が賞められ、眺められ、話題になっているようでは真にさみしい。何百人何千人もの優れた科学者のいる国、ノーベル賞受賞者が幾人もいる国では、一人一人の科学者は目立たない。そしてその国には科学の香りがみちみちている。国の外まで香っている。

人生の目的

おたまじゃくしに足が出て、尾が短くなって、やがて蛙になる。えらい蛙も、ばか蛙もおらぬ。皆同じ蛙だ。まったく平等に生まれて、まったく平等な蛙になる。