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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

特徴などと言ってはおられぬ。どうも医学書の文章は同情がない。この痛さを文章に簡単に書きあらわすのが第一すでに不人情だ。骨が痛むというのは、実にどうもなんとも言いようのない、面白くない感覚である。脂汗を流してうんうんうめくほどなら張り合いもある。神経痛みたいに、素晴らしく顔をゆがめるほどなら人にも話せる。痛むともなく痛まぬともなく、どこと定まりわからず、全身の深いところに、もやもやと痛むものがわだかまっている。じっとしていても骨みずから痛みを生じている。触れれば、ずうんとくる。たたけば飛び上がるほどだ。いちばん痛いのが脛骨、それから胸骨、あとは似たり寄ったりだが、肋骨は皮一重の下にあるので、なにかと物が触る度に、ずうんと痛む。もとは七十一キロもあってスポーツできたえた身体だったが、このごろは骨の数えられるまでやせているので、布団の重ささえ骨にひびく。

もう一つの切なさは腹である。脾臓がのさばって胃腸や心臓をおしつけているので、食べ物は多くは入らず、腸の通りは悪く、息切れはする。妊娠十か月の婦人が肩で息をついているのと同じだ。妊娠のほうはやがて赤ちゃんが生まれたらめでたしめでたしだが、私の脾臓は出てゆかない。