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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

こうして起こる原子病を防ぐために、私たちはいつも放射線の量を正確に測定していて、決して量を過ごさぬように気をつけている。だから今では、専門家が取りあつかうかぎり、放射線によって患者に迷惑をかけることはない。

放射線は鉛のような重い金属でさえぎられるから、防護の目的にはよく鉛が用いられる。患者の体に放射するときには必要以外の部分を鉛板や含鉛ゴム板で被い隠す。放射線室の壁や床や天井に鉛板を張って外部へ漏れないようにする。配電盤の前に鉛ガラスの衝立を置いて技師を護る。患者の傍らについて診療する医師は含鉛ゴム製の前掛、手袋、長靴や鉛ガラス製の眼鏡でものものしく身を護る。しかし、こんな鉛の甲を身につけていては重くて身動きもできないから、完全防衛というわけにはゆかず、背中のほうとか、二の腕とか、もものあたりは普通裸で出ている。管球から出る主放射線のほうはそれで十分防げるが、後ろのほうや横から来る二次散乱線を防ぐことはできない。この二次散乱線の量は主放射線の量に比べたらいちじるしく少ないものではあるけれども、長い時間には大した量に達するわけである。たとい一日の勤務中に受ける放射線量は少なくても、毎日々々連続働いて五年、十年とたつうちには、肉体の組織がいつしか破壊されて、ここに職業病としての原子病が起こってくる。