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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
学問に身を入れれば博士になり、土木界で働くなら大きなダムを作る。そのくらいの能力をもっておるなら、孤児を救済します、と言ってもまあよかろう。孤児の中から大臣も出る、長者も出る、博士も育つ、大芸術家もあらわれるにちがいない。その貴い将来を、自立もできない失業者が、救済します、とはおこがましい。
たとい偉大な人物であっても、孤児の前に大威張りで臨む権利はない。なるほど孤児はボロをまとい、あかにまみれ、哀れな格好をしているから、憐れみ、さげすみ、下に見るにふさわしいようであるけれども、この哀れな格好になったのは、大人の路上生活者と違って、自己の過失によって招いたのではない。あの一発の爆弾が家と両親を滅ぼすまでは、りっぱな家庭にあったのだ。おそらくは、教授の孫もおるだろう。発明家の子もおるだろう。芸術家の弟もあるだろう。運命の一夜をもって家なき孤児となったものの、その本質はいささかも低められてはいない。犬の子とは違う。
宿なし犬をつれてきて、飼うのとはわけが違うのである。
したがって、孤児の世話もおのずから違ってくる。職員の思うままに勝手な教育をおしつける権利はない。