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さるすべり

さるすべり

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,095 字 · 24 页

青空文庫

云った、「あらためて云うまでもないと思うが、われわれはこの城のまもりとして残った、おれを加えて五十二人、援軍はない。五十二人がさいごの一人となり、その一人のさいごの脈が搏ち終るまで城をまもりぬく、それがここへ残ったわれわれの役目だ、わかったか」援軍はないという一言が、集っている全部の兵たちにある共通の決意を与えたようすだった。合戦にのぞむからには討死は期している、そしておなじ討死をするなら、援軍などなしに五十二人一団となって死ぬほうがよい、誰の顔にもそういう割りきれたさっぱりとした決意のあらわれがみえた。「わかったら休め」治部介は片手を振った、「まだまだ戦には間がある、あまり早くから意気込んでいると、骨節が凝っていざというときにはたらきにくいものだ、まあぼつぼつとやろう、いいか」ぼつぼつやろうというのが可笑しかったので、みんな思わず笑いだし、列を崩して日蔭へはいった。

銃声はずっと城の近くへ迫った、陣鉦や鬨の声も聞えた、日暮れがたまでそれが続き、夜になるとずっと後退した。城兵があまりひっそりと鳴をひそめているので、かえって突っ込む気勢をそがれたらしい。