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しじみがし

しじみ河岸

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页

青空文庫

と高木新左衛門が云った、「そのまま放してやったのか」

「うん」と律之助は頷いた。

「よけいなお世話かもしれないが」と高木が云った、「律さんのやりかたはおかしいよ、そんなふうに聞きこみをして廻るぐらいで、なにか出ると思ってるのかい」

「昨日借りた金のことなんだが」

「まあお聞きよ」と高木が云った、「たとえばその六助というやつをいためてみれば、頼んだ人間がわかる、というふうには思わないのかね」

「思えないね、そう思えないんだ」

「どうして」

「ちょっと口では説明できない」と律之助は云った、「どう云ったらいいか、――つまり、これは普通の探索という方法ではだめだ、自分の勘で当ってゆくよりほかにない、という気がするんだ」

「悠暢なはなしだな」と高木が云った、「それで望みがありそうかね」

「ありそうだね、六助という男の現われたのがその証拠さ、いちどはちょっと諦めかけたんだが」

「断わっておくが」と高木が云った、「あの娘にはまもなく申し渡しがあるらしいよ」

律之助は「あ」という顔をした。

「ことによると、五六日うちかもしれない、どうやらそんなような話だったよ」

「――慥かなんだな」

「らしいね、もう月番(老中)へ文届けを出したそうだから」