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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页
二
そう繰り返すばかりであった。
もちろん、小森は必要な証人を呼んで調べている。差配の源兵衛や、相長屋の者たち、また地主であり付近一帯の家主で、質と両替を営んでいる相模屋儀平(出頭したのは番頭の茂吉であったが)など――だが、これらの証人たちからも、お絹に有利な陳述はなに一つとして得られなかった。
つまるところ、「この娘は下手人ではない」という律之助の直感以外に、反証となるような材料はまったくないのである。
「おれにはむしろそこが大事なんだ」律之助は写しをしまいながら呟いた、「なに一つ反証らしいもののないこの単純なところが、――ここになにかある、必ずなにか隠されている、おれにはそれが感じられるんだ」
それから彼は眼をつむって、祈るように呟いた。
「お父さん、――」
二
明くる日、――高木新左衛門は律之助をつれて小伝馬町の牢へゆき、囚獄奉行の石出帯刀に彼をひきあわせた。高木はなにも云わなかったし、律之助もよけいなことは訊かなかった。
石出帯刀は高木と雑俳のなかまだという。三十一二で、躯の小柄な、すばしこい顔つきの、はきはきした男だった。
「そうですか、花房さんの御子息ですか」