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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页
「おれはまいったよ」と律之助はいった、「長屋の女房たちの露骨な敵意も、子供たちの悪童ぶりも、弥五の若いじぶんの話も相当なものだった、しかし、お絹が、――疲れた、といったときにはまいった」
「盃があいているぜ」
「あたしは疲れた、しんそこ疲れきってました、といわれたときには、おれは、――」と律之助は頭を垂れ、それから、低い声でいった、「お絹が罪を背負ったのはそれなんだ、親や弟が安楽に暮せる、卯之は死んだ、生きているはりあいがない、そういうことよりも、生きることに疲れきって、ただもう疲れることから逃げだしたいという気持で、――ああ、おれにはそれがよくわかった、おれはそのことだけでまいったよ」
「まいったのはもうわかった、盃を持てよ」
「まいったのがわかったって」
「盃を持ってくれ」と高木がいった、「まいったことはわかったから、もう一つのことを話してもらおう、――律さんはどうして、この事件を、そう熱心に再吟味する気になったのか、わけはあとで話すと、いつかいった筈だぜ」
「一杯ついでくれないか」
「重ねてやれよ」高木は酌をした。
「こうなんだ」
「もう一つ、ぐっとやれよ」