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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页
「こうなんだ」と律之助がいった、「――父が死ぬときに、遺言のようなことをいった、父の誤審がもとで、無実な者を死罪にしたことがある、誤審ということがわかったのは、三年もあとのことだったそうだ、父はそれ以来、良心に責められて、一日も心のやすまるときがなかった、もともと、人間が人間を裁くということが間違いだ、しかし世間があり秩序を保ってゆくためには、どうしたって検察制度はなければならないし、人間が裁く以上、絶対に誤審をなくすこともできないだろう、――父はそういった、自分の誤審は殆んど不可抗力なものだった、それは同僚も上司も認めてくれたが、それでも良心はやすまらなかった、無実の罪で死んだ者のために、いつも冥福を祈りながら、とりかえしのつかない自分の罪に、夜も昼も苦しんだ、父はそういった、――だから、おまえだけはこの勤めをさせたくないって」
「しかもすすんで勤めに出た」
「すすんでね」と律之助は窓の外を見た、「もしできるなら、父の償いがしたい、一つでも償いをして、死んだ父にやすらかに眠ってもらいたい、そう思ったのでね」
「それは、知らなかった」と高木はいった、「そういうことなら、今日の酒は、二重の祝杯ということになるじゃないか」