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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
十五
むろん道などはない、葉の落ちたから松や杉などが林をなしてい、地面は笹で掩われている。――三巻きの綱が重荷で、はざまを登るのに半刻ちかくかかったろう。林の中をゆくのにも、下枝を折ったりくぐったり、またあとへ戻ったりしたので、目的の二本杉をみつけたときは、もう十時を過ぎたころのようであった。源の云った二本杉の、一本は枯れていた。どちらも樹齢は二百年くらいとみえ、そこから三十歩ほど東へゆくと、崖になっていた。地形はほぼ三角形で、突端に当る崖の下が、落ちたかけはしの位置になる筈であった。
「慥かに此処ですか」と岡村が訊いた。
隼人は崖の端へ腹這いになり、かれらに足を押えさせて、下を覗いて見た。しかし崖の中途に岩が張り出ていて、その下を見ることはできなかった。
十五
隼人は立ちあがって、躯に付いた雪と岩屑を払った。
「ここからは見えない」と彼は云った、「おりてみるから綱を解いてくれ」
「貴方がおりるんですか」と岡村が訊いた。
「綱を解いて」と隼人は足軽たちに云った、「それを一本につないでくれ」
「こんなことは貴方の役ではない」と岡村が云った、「私がやりますから任せて下さい」