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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
十七
「織部さんが本当にそう望まれると、信じていらっしゃるんですか」
「おれは兄をよく知っているよ」隼人は革紐を結んだ鉄梃と槌を取りあげ、紐を肩に掛けて吊りぐあいをためした、「――もういちど念を押しておく、この話はもう決してしないでくれ」
岡村七郎兵衛は肩をゆりあげ、「貴方を一つ思いっきり殴れたらいいんだがな」そう云って、杭を作っている足軽たちのほうへ去った。隼人は眉をしかめた。気張ったようなことを云ったあとの後悔で、口の中いっぱいに苦い味がひろがるように感じ、眉をしかめながら舌打ちをした。そこへ乾藤吉郎が走って来て「支柱の寸法を見て下さい」と云った。
十七
支柱にする杭は直径七寸、長さは六尺で七本作った。穴へ嵌め込むところを二尺だけ皮を剥ぎ、あとは皮付きのままで、これは出来あがるとすぐ、はざまをまわって桟道へ運ばせておいた。
隼人は杉の割り木で、楔を十ばかり作ると、それを両の袂に入れて立ちあがった。そのとき、杭を運んだ足軽たちといっしょに、村のあやがやって来た。あやははにかみ笑いをしながらこっちへ近よって、こくんとお辞儀をした。岡村七郎兵衛が横眼で隼人を見た。