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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
隼人はそっと首を振った、「つまらないことが記憶に残るものだな」
桟道のところで彼は綱を止めろと命じた。かけはしの残った部分は、そこから少し左寄りにある。隼人は岩を蹴ってはずみをつけ、振子のように躯を振って、かけはしの上へ移った。その残った部分も、落ちたほうの支柱の一本が腐っていた。隼人は用心してその上を歩き、新しい支柱の置いてある場所を慥かめた。――そこは断崖の尖端を向うへまわった、かけはしの袂に置いてあり、一本ずつに麻繩で背負い紐が付いていた。それを慥かめてから、隼人はまた綱を引きこころみ、躯を断崖のほうへ戻した。――綱の長さを少し伸ばさせ、まず左の端にある穴から仕事を始めた。腐って折れた支柱の残りを、鉄梃でこじり出し、穴の中をきれいにするのだが、穴は斜めに上へ向いているし、支柱のいちばん元に当るところは、どれもまだしっかりしているため、こじり出すだけでも予想外に暇がかかった。
「とにかく」と隼人は汗を拭きながら呟いた、「うまくゆくかどうか、まず一本ためしてみるとしよう」
鉄梃の革紐をしっかりと肩に掛け、岩を蹴ってはずみをつけると、隼人はかけはしへ移って、支柱の一本を背負いあげた。