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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
麻紐はしっかりしてい、充分に支柱の重さに耐えそうである。隼人は源に云われたことを、頭の中で繰り返しながら、上を見あげて叫んだ。
「杭を背負ったぞ、聞えるか」
「聞えます」と岡村がどなり返した、「どうしますか」
「綱に重みがかかるから注意してくれ」
「大丈夫です、こっちは総掛りです」
隼人は身に付けた物を、いちいち手で触ってみてから、静かにかけはしから身を放した。股当てを思いついたのはよかった。肩を緊めつける支柱の重さが、意外なほど大きいのにおどろきながら、隼人は自分に頬笑みかけた。綱を巻いただけでは、その重みだけで手も足も出なかったであろう。しかしこの股当てがあればやれるぞ、と彼は思った。
「あせるな、一日かかって一本でもいい、それでも七日あれば支柱は出来るぞ」と隼人は呟いた、「岩の縁を欠かないこと、穴へ杭を差込むには、だましだましやること、それから、絶対に下を見ないこと」
眼の下は百尺以上もある断崖で、はるかな渓流の音を聞くだけでも、その高さがわかるように思えた。隼人は決して下を見なかったし、渓流の音も聞かないようにつとめた。――第一の支柱はうまくはいった。