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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

米価は年によって高低があるけれども、八年より早く済むという望みはまずなかった。――幸い住居はそのままでよいことになったものの、家士、召使たちは減らさなければならない。家士は村井勘兵衛という老人夫妻、召使は下女一人にしたので、家や庭の掃除だけでもなかなか手がまわりかねる。召使は二人にしてもいいだろうと、隼人はすすめたが、きいは少しでも節約して返済に当てたいから、と云ってきかなかった。

別棟の長屋にいた村井夫妻を母家へ移し、かれらのあとへ隼人がはいった。あによめのきいが二十五歳、彼は二十七歳なので、同じ屋内に住むことを避けたのである。あによめのきいは小池帯刀の妹に当り、十七歳で朝田へ嫁して来た。隼人とは幼いころから知っていたため、いまさらそんな行儀にこだわる必要はないと思ったが、隼人にはその年の春、梅原家の二女と婚約の内談があったので、そちらへ遠慮しているのかもしれないと考えた。

九月にはいるとまもなく、帯刀の奔走によって隼人は二人扶持で藩校の剣道助教の席が与えられた。彼はもとその道場で助教を勤めていたが、教頭の後任となるため、柳生家から免許を取ることになり、二年の予定で江戸屋敷へいっていたもので、兄の死によって免許は取れなかったが教授の腕は充分にあった。