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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
するとそのとき、戸外で鳥の鳴く声がした。梟のような声で、ほっほう、ほっほうと二た声鳴き、ついで、まをおいてまた三声鳴いた。
――梟がこんなところまで来るのか。
そう思っていると、役所の脇にある通用口で、そっと引戸をあける音がした。引戸は重いので、音を忍ばせるあけかたが、却ってはっきりと注意をひいた。隼人は立ちあがって、寝衣の上に常着を重ね、なおその上から合羽をはおって部屋を出た。炉の間を覗いたが誰もいない、土間へおりて脇へまわってゆくと、通用口の引戸があいてい、そこから月の光りがさしこんでいた。――彼は静かに外へ出た。かなりまるくなった月が、眩しいほど近く空にかかってい、地面の砂粒まで見えるほど、あたりは明るかった。微動もしない空気は暖かく、ほのかになにかの香が匂った。岩蔭に萠え出る若草か、それともひるま陽に暖められた岩が匂うのか、極めてほのかではあるが、それはいかにも季節の変ったことを告げるかのように、深く、胸の奥までしみとおった。
隼人はふっと振返った。倉のほうで、鳩の鳴くような、女の含み笑いが聞えたのである。ついでなにかの物音がし、また同じ含み笑いが聞えた。