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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

彼はするどい苦痛を抑えるかのように、唇をひきしめ、眉をしかめた。赭くしらちゃけたあら土に、小さな標を立てただけの、それらの墓のぬしは「罪人」であった。その墓地の蕭殺たる眺めが、そんなにもするどく彼の心を撃ったのは、かれらが「罪人であった」という理由からであるかもしれない。罪を犯して捕われるような者は、たいてい気が弱く、めはしもきかず、孤独な人間のようである。隼人はいまその墓土の下から、かれらの嘆きの声が聞えてくるように思い、眼をつむってじっとうなだれていた。

まもなく「あの」と呼びかける者があった。眼をあいて振返ると、あやという娘が、墓地の端に立っていた。

「あの――」と娘は赤くなりながら云った、「正内さまが待って」

そう云いかけたが、突然、口を大きくあいて叫びながら、つぶてのように走って来て、隼人に躰当りをくれた。隼人は娘の躯を受けとめてよろめき、同時に、うしろから斜めに、空を切ってなにかが飛んで来、二十尺ほど向うの墓土に突き立つのを見た。糸がはしったようにみえたが、墓土に突き立ったのは矢であった。

「危ない」娘はけんめいに隼人を押しやった、「先生、危ない、権八です」