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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

「やれるところまでやってみましょう」と隼人は云った、「辛抱することにかけては、かなり自信のあるほうですから」

老人は隼人の眼を、なにやら意味をかよわせるようにみつめ、それから静かに会釈した。隼人は当惑したように眼をそらした。

御用林の仕事は五月いっぱいかかった。

三百町歩余りある檜と杉のうち、杉は幕府に属するので「御用林」と呼ばれていた。毎年五月から九月まで、下生えの除去と、病虫害と、盗伐の有無をしらべるのが、木戸の役目の重要な一つであり、伐採にはべつに樵が雇われるのであった。――このときの人数は、村から男十二人と女二十一人、十四五歳から五十六七歳まで、合わせて三十三人。木戸からは番士二人と足軽八人、小者二人が出、隼人も五日にいちどの割で見廻りにいった。――そこは大仏岳の南側にあり、断崖の多い嶮路をゆかなければならない。特に「大崩れ」と呼ばれる崖道は岩質が脆いとみえ、皿大に欠けた岩が、狭い道の上へ絶えず落ちて来る。これはたいてい道を越して、左側の断崖へ落ちてゆくが、ときには道の上へも崩れて来るため、そこを通りぬけるにはよほどの注意が必要であった。