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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
ばかり運びましたかな、それでやっと一畝ばかりの畑が出来ました」
「もう少し近くにはありませんか」
「領境の向うならあります」老人は金火箸で灰に図を描いた、「この如来ノ峰から二十町ばかりおりると、山火事で焼けたまま、草だけの荒地になっているところがあります、そこなら近くもあり道もよいので、ずっと楽に運べますが、隣藩の土地ですから、なかなかむずかしいと思います」
「なんとか手を打ってみよう」と隼人は云った、「とにかく、このまえ話したように遊ばせておいてはよくない、力仕事をすることで、女たちの精力のはけ口にし、また働く習慣も身につくようにしよう」
隣藩とは城下から交渉させるが、それまで四ツ沢の土を運んではどうか、と隼人が云い、老人もそれがよかろうと頷いた。音曲のほうは木戸の者が来て演奏し、当分のあいだはただ聞かせるだけにする。かれらのほうからすすんで習いたいと云いだすまで、こちらからは決してすすめない、ということにきまった。――五日に一度、夕食後から一刻半、正内老人の住居で、三味線は乾藤吉郎、琴は西沢半四郎、笛は足軽の磯部庄左衛門、太鼓も足軽の岸田久内、以上の四人が演奏に当った。