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どぶろくげんそう

どぶろく幻想

豊島 与志雄

「群像」1952(昭和27)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,452 字 · 21 页

青空文庫

「ストック品が無くなったら、店を閉めて、横浜へ行きます。とにかく、商品は売らなければなりませんからね。千代乃の遺骨は、親戚のひとが持ってゆきました。荷物も持たせてやりました。金もやりました。もうわたし、一人きりです。」

しいんとして、潮の引いた後のようだった。さほど寒くもないのに、周さんがやたらにつぐ火鉢の炭火が、徒らに赤々としている。眠れない深夜のように。意識は茫としているのに、眼だけが冴えていた。酔ったばかりではなかった。

突然、周さんは頓狂な声を立てた。

「あ、ありました。一つ残っています。」

鏡台が残っていたのである。周さんも一緒に使っていたものではあるが、鏡台といえば、やはり千代乃さんに属するのだ。

「鏡は、女の魂とか言われていますね。」

古風な言葉だ。

「あれがある限り、やはり千代乃も残っている。そうではありませんか。」

「まあ、そうかも知れないね。」

周さんの眼を見つめると、周さんも俺の眼を見つめた。互に、何かを探り出そうとするのではなく、一緒に感じ合おうとするのだ。

「ほんとうに、千代乃に逢いましたね。」

囁くような静かな言葉だった。

確かに逢ったようだ。