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はたしじょう
はたし状
山本 周五郎
「週刊朝日 新年増刊」朝日新聞社、1951(昭和26)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,525 字 · 39 页
昂奮したのだろう、千久馬は顔を蒼くし、もどかしげに手振りをしながら云った。……第二の耳には英之助の言葉がはっきり残っている、鋭い眼で、こっちを刺すように見ながら、「友達としての忠告だ」といった彼の言葉が……。
「おれは寧ろ藤島に同情している」千久馬はなお続けていた、「――第さんが帰って来て、眼と鼻のさきにいるとすれば、彼の立場は苦しい、それも非常に苦しいだろうと思う、それはおれにはよくわかるんだ、しかしどうしたって蒔いた種は苅らなければなるまい、彼はそれだけの事をしたんだから、……人間は弱いものだ、罪を犯した者が、その罪を隠蔽するために重ねて罪を犯す、……初めに犯した罪をつぐなう勇気のない者は、必ず次ぎ次ぎと、段々に重く、大きな罪を重ねてゆく、そこに弱い人間の悲しさがあるんだ」
第二は歩きながら低い声で独り言を呟いた。まったく聞きとれなかったが、千久馬は構わず続けた。それにしても英之助のやりかたが悪辣すぎるということを。信じられないような江戸での醜聞。情事。重役にとりいった役替え。帰藩してからの怠慢、常に無断で休み、勤めを投げやり、暢気らしく山歩きばかりしていること。