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ばちあたり
ばちあたり
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页
私はまいった。母があのノートを読んだということは想像もしなかった。敏夫が読み、そのために性格がぐらついたものと考えていた。私はしんそこまいった。かあさん、と私は心の中で繰り返し呼びかけた。あのとき、神聖なものを冒涜したというように感じた、その感じが、いまはもっと現実的な量感で私を押し包み、全身を搾めあげるように思われた。
――自分は母を実験動物のように考えたことはない、そんな考えは微塵もなかった。
家へ帰るまで、私は救いを求めるように、そう主張し続けていた。
注文の料理が届き、姉が酒の支度をした。敏夫は陽気になり、なにかうれしいことでもあるように、活発にしゃべったり笑ったりし始めた。膳には甘煮や焼き物のほかに、この地方のこの季節だけにある鱈の料理。作り身や、肝臓を入れた味噌椀があり、私にはなによりの好物だったが、たのしんで味わうような気持のゆとりはまったくなかった。
「ぼくがかあさんに苦労のさせどおしだったって、さっき姉上は仰せられましたね」敏夫は明るく微笑しながら云った、「――仰せのとおりです、ぼくはなっちゃない野郎です、ぼくはあんたたちの余りっかすで出来たらしい、姉上や健さんや啓さんに、いいところはみんないっちゃって、残りのかすでやっとこさぼくが生れたんでしょう、することなすこととんまで、まぬけで、