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ひとでなし

ひとでなし

山本 周五郎

「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页

青空文庫

伴れの顔をじっとみつめた。

「おい、すみはどうした」と彼は低い声で聞いた、「すみに会ったのか」

痩せた男は顎をしゃくった、「向うの庫裡で仁兵衛が賭場をやってる、すみは約束どおり来ていたよ」

「それで、まだ会わねえのか」

「すみのことは心配するな」

「会ったのか会わねえのか」

「大きな声をだすなよ」痩せた男はふところを手で押えた、「旅切手は二枚、おれたち夫婦とおめえのと、ここに持ってるから安心しろ」

「すみは賭場へ戻ったのか」

痩せた男は黙って歩きだした。大きいほうの男がついてゆくと、鐘楼の向う側へゆき、そこで痩せた男は立停って、そこに転げているものへ顎をしゃくった。

「こいつはまったく手の早い野郎だ」と痩せた男が云った。

吉の字と呼ばれる男は身を跼めた。そこに転がっているのが人間であり、血の匂いのするのに気づいた。その人間は俯向きにのびており、すっかり息が絶えているようであった。

「ひでえことを」と彼は口の中で呟いた、「ひでえことを――」

「そいつは欲をかきゃあがった、十両だなんてふっかけたうえに、ふところへ手を入れやがった」と痩せた