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ひとでなし

ひとでなし

山本 周五郎

「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页

青空文庫

「わる酔いをなさりゃしないかしら」

「大丈夫だ、こんなにいい心持に酔ったのは初めてだ」と康二郎は云った、「あさって堀留の店へはいってしまえば、こんなことはもうできゃあしない、初めての終りで、今夜は飲めるだけ飲んでみたいんだ」

「わる酔いさえなさらなければいいけれど、ふだんあまり召上らないから」

「今夜はべつだ」と康二郎が云った、「いいからあとをつけて来てくれ」

おようは立ちあがって、茶の間へゆき、まもなく戻って来て、坐りながら頬を押えた、「あたしも少し酔ったようよ」

「いい色だ、眼のまわりがいい色に染まっているよ、きれいだ」彼はおようの顔を見まもった、「およう」と彼は感情のこもった声で云った、「ずいぶん遠廻りをしたな」

おようはそっと眼を伏せた。

「おまえが初めて堀留のうちへ来たのは、九つか十のときだったろう、姉はおまえを妹のように可愛がっていた、同じ町内なのによく泊らせて、着物を着せ替えたり、髪を結い直したり、お化粧をしてやったり、まるで人形かなんぞのように可愛がっていた」

「いまでもよく覚えている」と彼は酒を一と口啜って続けた、「おまえはちんまりと坐って、髪をおたばこぼんに結ってもらい、口紅をつけてもらいながら、いっぱしな顔つきでつんとすましていた、姉はおまえを独り占めにして、私をそばへ寄せつけ