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ひとでなし

ひとでなし

山本 周五郎

「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页

青空文庫

なかった、私はそばへ寄れなかったが、おまえが本当の妹だったらなあ、とよく思ったものだ、ずっとあとで、嫁に欲しいと思いだしたが、初めのうちは妹だったらどんなによかろうと思ったものだ」

「そうかしら」とおようは酌をしながら彼を見た、「あたしぼんやりだからよく覚えていないけれど、あなたはいつもあたしのことを、怒ったような顔で見ていらしったようよ」

「ああ」と彼は溜息をつき、おように酌をしてやった、「飲んでくれ、今夜はおまえも酔ってくれ、古いせりふだが、酔ったらおれが介抱してやる、うん、私のこの手でな、ずいぶん遠廻りをしたが、とうとうここまで漕ぎつけた、自分のこの手で、おまえを介抱してやれるようになったんだ、――十六年、まる十五年以上だ」

おようは立ってゆき、燗徳利を持って戻って来た。康二郎はそれにも気がつかないようすで、酒を啜り、そして話し続けていた。

「私はおようを嫁にもらいたかった、覚えていることが慥かなら、十七の年だ、浜町の河岸の石垣を直していたときで、私はそれをぼんやり眺めながら、おっ母さんにそう云おうかどうしようかと考えていた、まさか云いだせやしない、そのときおまえはまだ十三か十四だったからな」