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ひどいけむり
ひどい煙
久生 十蘭
「オール讀物」1955(昭和30)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,064 字 · 18 页
といったきり、しばらくは、あいた口がふさがらなかった。
商館長のカロンの守は、気味の悪いくらい達者な日本語で、
「モルタール……すなわち、この薬研型の大砲は、差しわたし一尺五寸、重さ五十六カティ、日本の貫目にして六貫七百二十目の炸弾を打ちだし、八百歩のむこうにある目標を微塵にうち砕くとでござる。この大砲は、炸弾を天頂から落し、大遮蔽物、あるいはまた、城郭のうしろにいる敵を殺傷するゆえをもって、天砲とも申す」
と、真顔になって註釈したが、そういう一瞥のうちに、東印度会社の念の入った魂胆を見ぬいてしまったので、外記も、四郎兵衛も、苦笑するばかりで、誰一人、相手にはならなかったのである。
天砲の註釈は、いらぬことであった。明朝の中期に升何汝賓が漢文で書いた西洋火攻神器説を読んで、早くから臼砲の諸元を知っていた。一尺二寸の口径にたいして、十五尺という砲身は必要以上に長すぎる。この砲から六貫七百二十目の玉を四十五度以上の仰角で打ちだせば、持矢倉(最大射程)は二町半がせいぜい。つまるところ、この臼砲は厖大に仕立てることによって、故意に諸元を狂わしてあるが、それは臼砲の効用を好戦的な日本人に知らせたかったからだと、咄嗟にオランダ人の心情を看破した。