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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页

青空文庫

一

一

「ただいやだなんて、そんな子供のようなことを云ってどうなさるの、あなた来年はもう二十一になるのでしょう」

「幾つでもようございますわ、いやなものはいやなんですもの」

こう云って文代はすました顔で菓子を摘んだ。小さい頃から、「あたしのお鼻はてんじょうを向いているのよ」と自慢していた鼻が、そんなふうにすますと正しく反ってみえ、子供っぽい愛嬌が出るので面白い。信乃はつい笑いそうになりながら、茶を注いでやった。

「いったいその武井という方のどこがお気にいらないの、御家族も少ないというし、御身分のつりあいもいいし、申し分はなさそうじゃないの」

「ですから申上げたでしょう、その方には不足はないんですのよ、ただいやなんです、本当はわたくし結婚するということがいやなんです」

「まだそんな詰らないことを云って、だってあなた、女はどうしたって、いつかは家を出なければならないものなのよ」

「ええわかっていますわ、でも結婚しなくってもお家を出ることはできるでしょう、尼さんになってもいいし、なにか芸事を教えて独りで暮してもいいし……わたくしだってそのくらいのことは考えていますわ」