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めおとちょう
めおと蝶
山本 周五郎
「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页
五
「御用で出る、今夜は帰らぬかもしれぬ」
五
良人に支度をさせて送りだしたあと、召使を寝かせてから、自分もいちど寝所へはいった。しかし眠れそうでもないし、ことによると良人が帰るかもしれないと思い、居間へ戻って火をかき起し、茶を濃く淹れて、縫いかけの物をとり出して坐った。
――おまえは私に不満かもしれない、私は小身者の出だから、……軽侮したくなるようなぶざまなことが多いだろう。
良人の云ったことが思いだされた。軽侮という言葉はいつかも出た、今夜は二度、しまいのほうで中断されたが、おまえに軽侮されないような人間にと云った。……信乃は良人を愛することができない、それが高じて憎むようにさえなってきた。けれども「軽侮」などということは、自分では夢にも感じたことはなかった。
「――なにを思い違いしているのだろう、自分のどういうところがそんなふうに見えるのだろうか」
信乃は針の手を膝に置いて、これまでの良人との明け昏れを思いかえそうとした。
そのときであった。すぐ縁側の外の雨戸をひそかに指先で叩く音がし、自分の名を呼ぶような声が聞えた。……初めは風が戸を揺らし、雪の囁きだと思った。